伊藤忠商事理事、吉林大学中日経済共同研究中心研究員 石田護
国際通貨情勢不安定化の根源は先進経済の量的緩和政策である。日本銀行と欧州中央銀行は円安、ユーロ安を意図して量的緩和政策を過激化してきた。米・日・欧の中央銀行が供給する大量の資本が国境を超えて移動して為替変動の振幅を拡大、国際通貨情勢を不安定化している。私が過度の資本移動と為替レート変動を抑える金融政策協調を提唱する所以である。
国際社会にはそれを支持する一定の世論が存在する。G20の財務大臣中央銀行総裁は、2016年2月、上海で「通貨の競争的な切り下げを回避することや競争力のために為替レートを目標とはしないことを含む、我々の以前の為替相場のコミットメントを再確認する」ことに合意した。IMFは、膨大な資本流動を生み出している国々を含むすべての国の政策当局者に、みずからの政策がどのように世界の経済と金融の安定に影響するかに配慮することを促してきた。世界銀行チーフエコノミスト、カウシィク・バス(Kaushik Basu)氏は、上海G20に先立って「経済のグローバル化で金融政策が国境を超えて作用する。G20では金融政策の協調の議論が必要」と語った。
金融政策協調の障害は、「金融政策は引き続き、中央銀行の負託と整合的に経済活動と物価安定を支える」という考えである。先進経済の中央銀行が2%のインフレ率達成の負託に応えるため実施する量的緩和政策こそが大量の資本移動を通じて国際通貨情勢を不安定化してきたとの認識が欠如している。また、新興国からの急激な資金流出を抑えるための規制策を作業部会で検討することに合意したと伝えられるが、流出の根源である量的緩和政策による大量の資本供給を問題視する意識が希薄である。元中国人民銀行貨幣政策委員余永定氏が主張する通り、新興工業国は先進経済の自国利益中心の金融政策が引起す資本の流入流出に翻弄されてきたとの思いが強い。
G20諸国が、量的緩和政策は物価上昇と経済活性化の効果がなかったことと、資本移動が国際通貨情勢を不安定化したことの双方についての認識を共有すると、おのずから金融政策協調の必要性についての合意が生まれると考えられる。しかし、伝統的金融政策観に捉われる先進経済が金融政策協調の議論を率先するとは期待できない。ここは人民元使用可能通貨化を迫られている中国の出番である。そもそも、リーマンショック後の2008 年、第一回のG20 金融サミットが開かれたのは、世界第三位の経済大国中国が参加しないG7で世界金融危機への対応を協議しても意味がないとの認識があったからである。今は世界第二位の経済大国となった中国の発言は一層の重みがある。中国に次ぐアジアの大国インドの中央銀行総裁ラグラム・ラジャン(Raghuram Rajan)氏は、非伝統的金融政策がもたらす対外的波乱効果を指摘し、「21世紀の統合された世界に相応しい制度の構築」を呼びかけている。中国はインド、インドネシア、アルゼンチンなどG20中の新興工業国と連帯して発言することができる。本年9月、杭州で開かれるG20サミットに向けての作業部会が実質的な議論の場となるだろう。それが契機となって国際通貨情勢が改善するならば、世界経済安定成長の環境が整備されることとなる。中国も人民元自由使用可能通貨化の前提である資本勘定自由化と人民元為替レートの市場化に向けて進むことができる。
2016年4月10日
「中国網日本語版(チャイナネット)」